四季盛農園 式森彦人が、果樹・みかんの栽培から販売について、約1年間執筆した月刊誌「現代農業」への平成27年の寄稿文を紹介します。

現代農業平成27年3月号 先輩農家からのアドバイス

せん定


とにかく経験を積むこと


 ミカンの樹は生理として、実が成る年と成らない年を交互に繰り返します。これを隔年結果といいます。せん定と摘果によって「毎年、実を成らせましょう」というのが、ミカン農家の仕事。特にせん定はその後の作業、または品質に大きく影響する大切な仕事です。
「事件は現場で起こっている」わけで、いかに多くの資料を読んでも、経験者の話をたくさん聞いても、せん定という作業は理解できません。1本として、同じ樹や枝がないからです。またミカンには、カキなど多くの落葉果樹に見られる「せん定の方程式」もなく、基本2年かけて花を咲かせるため、難しい面があります。そのため10本より100本、100本より1000本と、1本でも多くの樹をせん定することが重要です。

せん定のいろは
 実際に作業するにあたって、まずは不自然な枝を取り除きます。不自然な枝とは、逆行枝(主幹に向かっている枝)、交差枝、平行枝などを指します。次に枝に混み合った部分を整理して、スペースをつくります。枝を基部から切り落とす、これを「間引き」といいます。そして長い枝は途中で切ります。深く切れば強い枝が出て、浅く切れば弱い枝が出る、これを「切り返し」といいます。
 樹の上部は養分や水分が運ばれやすく、樹勢が強くなります(頂芽優勢)。その性質を利用して、せん定でどちらか選ぶ場合は、上向きの枝を切り、平行ないし下向きの枝を残します。つまり、ストレスのかかりやすい、落ち着いた樹形にするわけです。これにより、弱い春芽を出させ、果梗枝の細い、小ぶりの実をつくるようにします。そのため、ハサミは立てず、できるだけ横向きに使い、弱せん定とします(横向きの枝は切らず、上向きの枝を切る)。

徒長枝も利用
 ただし、近年、わが家では徒長枝も積極的に活用しています。昔はすべて切り落としていましたが、ほどよく残すと、そこから春芽が出て、翌年には花が咲き、実の重みで枝が垂れ下がります。すると、品質のよい実が成ります。特に、今年の花芽が多く、来年の結果枝が少なく、連年結果が難しい場合は有効だと思います。(来年の結果枝を確保)。
また、表年が予想されるときは、枝を選んで、その葉や花芽をすべて取り除く方法もあります。花ばかりになる年に、ちゃんと春芽を発生させるわけです。ただし、樹の状態や生理落下の程度、その年の気候などで失敗することもあるので、多くの経験が必要となってきます。

その他、黒点病の原因となる「枯れ枝」を除去したり、不必要な「ふところ枝」、実が地面につくような「すそ枝」も整理します。

小玉で連年結果
 せん定は「腹九分目」。少し切り足りないかなあ、とか、もう少し切りたいなあ、くらいがちょうどいいように思います。保険をかけて、摘果で調節していくほうが安全です。
 それから、感覚を研くことです。どの枝が必要で、どの枝を抜くのか、頭で理解せず、手で判断。非科学的な考えですが、これが作業効率を上げるコツです。せん定を難しく考える人も多いですが、要は間引きと切り返しの組み合わせであり、樹の状態を見て、どちらに重点を置くかのシンプルな作業です。
 消費者の要求に合わせて、せん定方法も時代とともに変化しています。ひと昔前であれば、L級の市場価格が高かったのですが、現在はМ、S級、ときによっては2S級が好まれます。大玉が敬遠され、小玉が歓迎される状況は、ミカン農家にとってつらいところですね。技術的に、小玉を連作結果させることは至難の業だからです。専業農家として、この問題とどうつきあうのか、またはどう克服するのか、これからの課題になっていくでしょう。