四季盛農園 式森彦人が、果樹・みかんの栽培から販売について、約1年間執筆した月刊誌「現代農業」への平成27年の寄稿文を紹介します。

現代農業平成27年9月号 先輩農家からのアドバイス

除 草


草生栽培の良し悪し
 

 その昔、「上農は草を見ずして草をひく」という言葉があったそうです。勤勉のすすめであったり、仕事に対する段取りであったり、また、農業に対するひたむきさを喚起する言葉だったのでしょう。
 農作物を栽培するにあたり、昔から除草という作業は大きなウエイトを占め、労力においてかなりの負担になっていたはずです。もちろん、野菜と果樹では草に対する意識や対処の方法、付き合い方も違うのでが、ここでは果樹の草生栽培について考えてみたいと思います。
 まず、草生栽培のデメリットを挙げると、作物との養水分の競合、農作業の効率低下、春の地温の上昇障害、草が害虫の住みかとなる、などです。それからこれはデメリットではないのですが、自身の園はきれいにしておきたいという美意識や周辺への配慮もありますね。
 しかし、私は草生栽培にはそれ以上のメリットがあると考えています。「土や肥料の流亡を防ぐ」「草が紫外線を遮り、適度な温度と湿度を保つので、微生物の繫殖が促され、粗大有機物の分解が進み、ジミ土(肥沃な耕土)が増える」「草の根が土中に張ることでそこに酸素が供給される」などです。そして、草の管理の方法によっては、除草の労力と費用を抑えることもできます。
 樹にからみつくつる性の草や多年草、落葉低木は除草の対象ですが、春に発芽し、夏にタネをつくって枯れる一年草はそのままにしておいても問題ありません。これらの草を残して繫茂させることが私の草生栽培の基本です。

春草で夏草を抑える「抑草栽培」
 除草作業は春と夏の基本二回です。春は良質の一年草をできるだけ残し、他の多年草を除草剤のスポット散布で処理します。ミカンの樹の下枝にかぶさった春草は倒すか刈り払います。春草を繫茂させておくと、初夏に枯れて倒れ、夏草を発芽させずに抑えることができます。これを私の造語で「抑草栽培」と呼んでいます。
 逆に言えば、春草をすべて除草剤で処理してしまうと、早い時期から夏草が茂りだし、何度も除草作業に追われることになります。それでもすべての夏草を抑えることができず、除草剤のスポット散布のあとにまた夏草が生えてきます。
 6月下旬には夏草がほぼ出揃うので、大きくなる前に除草剤をスポット散布し、秋は園の状況を見て対処します。多年草や地下茎で増える草が多い園は吸収移行型の除草剤、一年草の多い園は接触型の除草剤と使い分けています。ただ、同じタイミングで同じタイプの除草剤を使い続けると、その後、生えてくる草が偏るので、年によって意識的に除草剤の種類や処理時期を変えてみるのも大事ですね。

果樹栽培に適した草を!
 私の園ではナギナタガヤのタネも播いているのですが、繫殖力がそれほど強くないのか、思ったほど増えてくれません。強い草というか除去したい草を手作業で取り除くなど、栽培管理を意識しないと難しいみたいですね。
 草の生えないようなところには作物もできないといいますが、果樹栽培の邪魔をしないで、おとなしく静かに生えて、悪い草を抑えながら確実に増えていく……そんな人間にとって都合のいい草を誰かバイオでつくってくれませんか!カタバミという草がその条件に近いので、私なりに注目しています。

 冒頭の「上農は……」には続きがあって、中農は草を見てから草をひく、下農は草を見ても草をひかない。そして「特農」は草を見ずしてマルチをひく。最後のはジョークです。