四季盛農園 式森彦人が、果樹・みかんの栽培から販売について、約1年間執筆した月刊誌「現代農業」への平成27年の寄稿文を紹介します。
果樹経営は品種で決まる
果樹経営を突き詰めると、品種に行きつきます。収穫はいつなのか、販売時期をいつにするか、この土地に合う品種は何なのか、消費者の嗜好はどうか、消費動向がどのように変化するのかなどです。
品種に勝る技術なし、いわれるように、たとえば栽培管理で糖度を一度上げるより、高糖度品種を選ぶほうが確実に効率がいいですね。また、これからの時代は、収穫が特別早いとか特別遅いとか、圧倒的においしかったり、安全であるなど、「芸のある商品」でなければ生き残れないと思います。つまり、樹の生理のもとでしか経営は成り立たないのです。
永年作物を栽培する以上、品種を選ぶ機会は何度もなく、自分の持ち時間も多くありません。そのようなことから、接ぎ木は果樹経営者必須の技術だと考えています。
まず、品種の劣るミカンを、短期間で劇的に最新最高の品種に更新することができます。そして、先行して新しい品種を取り入れる場合、その品種の特性は説明書通りなのか、また、その品種のよさが自分の土地にあらわれるのかなど、今一度、立ち止まって、疑ってみる必要があります。接ぎ木で試験栽培を行えば、短期間で真価を見極めることができます。
穂木の扱い
春接ぎ(五月上旬)に使用する穂木は、三月の彼岸に、前年伸長した春枝ないし夏枝を採取します。その後、50㎝に切り揃え、葉柄を残して葉を取り除き、1kg程度ずつ結束。それを新聞紙にくるんで、厚めのポリ袋に密封し、ミカンの貯蔵庫内の風通しのいい場所(空気穴)に置いておきます。
二週間くらいしたら、一度ポリ袋を開け、葉柄を「掃除」します。この時点で穂木から葉柄がポロポロととれていればオーケー、貯蔵管理がうまくいったかどうかの目安となります。そして、もう一度、新しい新聞紙に巻きなおし、ポリ袋に密封して、接ぎ木時期まで貯蔵しておきます。
穂木の貯蔵管理は、接ぎ木の一連の作業の中で最も難しく、失敗することもあります。そこで私はリスク分散のため、接ぎ木の際にも穂木の採取を行っています。採取したら穂木の新芽と葉を取り除き、すぐに接ぎ、そのまま副芽を伸ばしていくのです(接ぎ木の際は、貯蔵した穂木と採取したばかりの穂木、どちらも使う)。
たくさん接いでリスク分散
接ぎ木可能な中間台木(それまで栽培していた樹)の樹齢リミットは品種にもよりますが、10~15年です。接ぎ木で最も大切なのは、この中間台木だと考えています。ここにはお金で買えない「時間」が詰まっているからです。そのため接ぎ木というリスキーな作業を行なうにあたり、リスクの分散と活着率の向上を目指しています。
まず中間台木の切り口は、直径3~4cm,最大5cm程度とします。これはつまり、枝の先のほう(樹の外側)を切るという意味で、一本の樹に出来るだけ多くの穂木を接いでいきます。接ぎ木が成功する確率が上がりますし、たとえ失敗しても、基部のほうに切り戻せば、翌年、再チャレンジできます。
また、私は前年秋、枝の中間にも腹接ぎをしています。春、接ぎ木に失敗した場合、その保険になりますし、空間を早く埋めることにもつながります。
接ぎ木後の管理
接ぎ木の手順は図の通りです。ポイントはただ一点、過湿にしないことです。好天が続き、穂木や中間台木の切り口が乾き気味ほうが成績がいいように思います。接ぎ木後は、切り口に水が入らないように、穂木にパラフィンテープ(メデール)を巻きつけておきます。あとは、穂木がぐらつかないよう、またパラフィンテープがはがれないよう、接ぎ木用テープで固定。最後、中間台木にホワイトンパウダー(白塗剤、主成分は炭酸カルシウム)を塗布し、樹脂病を防ぎます。
穂木が活着したら添え木をし、新芽が伸びるにしたがいテープで留めていきます。新芽にはアブラムシがつきやすいため、その都度、防除が必要です。
施肥は、最初、通常の七割程度を数回に分け、三年目より標準にもどします。
せん定は、伸びた枝を二年目に20~30cmまで切り返します。基本、穂木一本に枝一本として、できるだけ強い枝が出るように心がけています。三年目は、枝の整理、間引きが中心となり、この年から着果。五年目で元の収量に戻ります。
「失敗のすすめ」とでもいいますか、とにかく接ぎ木は経験以外になく、一本一本一芽一芽、慎重に作業を進めていくことが大切です。