四季盛農園 式森彦人が、果樹・みかんの栽培から販売について、約1年間執筆した月刊誌「現代農業」への平成27年の寄稿文を紹介します。

現代農業平成27年12月号 先輩農家からのアドバイス

販 売


9月から5月まで連続出荷
 

 私が就農したとき栽培品種は、早生四、晩生四、ハッサク二の割合だったので、どうしても11月~12月に労力が集中してしまい、収量勝負の経営になっていました。経営を譲り受けてからは、
まず極早生の導入からはじめ、現在は極早生、早生、晩生、雑柑と大きく分けて四つの品種を栽培しています。
 そして、近隣地域に直売所が何ヵ所かできたことと、それぞれに有望な品種が出てきたことで、極早生と雑柑のさらなる細分化を考えており、シルバーウイークを始発としてゴールデンウイークすぎまで、連続した出荷を目標としております。

晩生へのこだわり
 その中で経営の柱に捉えて晩生ミカン「大津四号」です。私の地域は比較的冷涼な気候で夏の昼夜の温度差が大きく、糖ものるのですが、酸ものりやすいため、極早生などは減酸が遅く、出荷も遅れがちになります。反面、味にコクができ、また、晩生は長期貯蔵に耐えることができ、4月上旬まで出荷が可能です。
 他に晩生ミカンにこだわる理由は、開花から収穫までの期間が他の品種に比べて長く、その分、味が濃いことですね。また、大津四号という品種は不思議なミカンで、大果(3L
4L)でもM, Lと味に大差がなく、食べごたえがあります。
 そのミカンを「セイロ」という木の箱に入れ替え、20段の枠に差し入れて貯蔵するのですが、これがなかなかハードな作業で、晩生をつくる人が少ない状況です。つまり、この作業がハードルとなって、他の農家の参入を拒んでいるともいえますね。

単価を上げるために
 ミカン栽培を生業としている以上、所得の向上が経営の維持につながります。そのためには、二つの方法があります。まず一つは商品単価を上げること。もう一つは収量を増やすことですね。収量を増やすには、規模拡大など物理的な要因と労働条件さえクリアできれば比較的ラクなのですが、単価を上げるとなると、自分だけの都合ではいかないので、簡単なことではありません。
 価格は基本、需要曲線と供給曲線の交差に設定されるわけで、マツタケが高いのもここでしょう。つきつめてみれば、商品単価を上げるためには、誰もつくらないものをつくるか、誰もつくれないものをつくるしかないのですね。しかし、これがじつに難しい。

価値あるミカンを
 極端な話、ミカンは大阪弁でいうところの「いらんもん」(必要のないもの)でしょう。
さあ、春がきたから肥料をまくぞ、せん定もしなければ、防除はいつからだ、摘果にもまわらなきゃ……。もちろん、それらは必要なことなのですが、季節にそった、いつもの年のいつもの作業でいいの?いつものミカンでいいなら、その他大勢の中に埋没してしまいます。 
 5月号でも書きましたが、これからは芸のある商品しか生き残れない、それは味であり、出荷時期であり、安全性だったりするはずです。「ミカンはいらんもん」という意識づけをし、どのようなものをつくりたいのか、どのような時期に出荷したいのか、また、消費者は今、何を求めているのかなどを考えていくと、「価値のあるミカンとはどんなものか」のヒントがおのずと見えてくるはずです。そのためには、技術を磨くこと、アンテナを張り巡らし情報を得ること、知識を蓄えて引き出しを増やすこと、たくさんの人と交わることなど、やることはいくらでもあります。そして最後に勝ち組として残ったときには、「継続は力なり」といいたいですね。